米VERITASジョルジュ・エネスコの彈くコレルリ、ヘンデル、ショーソン、プニャーニN.MINT ベスト

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カテゴリ音楽レコードクラシック器楽状態未使用に近い(詳細)GEORGES ENESCOOne of The Century's Great Violin Virtuosi PlaysHANDEL: Sonata No. 4 in D MajorCORELLI: La FolliaCHAUSSON: PoemePUGNANI: Largo Espressivo and AllegroGEORGES ENESCO, violinaccompanied bySANFORD SCHLUSSEL, pianoVM 111Veritas Records Inc. 1967COLUMBIA SPECIAL PRODUCTS
ジョルジュ・エネスコがヴァイオリニストとして絶頂期にあった頃の演奏を収録したSP盤からLP復刻したもので、現在、数ある復刻LP及びCDのなかでも最も鮮明かつ忠実にエネスコ特有の多彩な音色と朗詠的奏法を忠実に再現しているとの定評があるが、プレス枚数が少なくその稀少性からもハイブロウな弦楽マニア垂涎の一枚である。
このLPについてかつて音楽評論家の中野雄氏が次のやうに誌しておられた『本人が録音を好まなかったこともあり、楽風がいささか大衆政治欠ける孤高の趣を特色としていたこともあって、タイトルの数は決して多くない。だがそのなかに「神技」としか評しえない名演、ヘンデルの《ヴァイオリン・ソナタ第4番ニ短調》と、コレッリの《フォリー・ディスパーニュ》(ラ・フォリア)という二曲があり、愛好家は掌中の珠のごとく永年これを秘蔵してきた。・・・復刻の出来はVeritus(米)のLPが最高だが入手至難。復刻CDは何れも70点というところか。』(クラシック名盤この一枚、光文社、2000年)
また盤鬼西条卓夫は、アッカルドによる古典ヴァイオリンソナタのリサイタル盤が出た際に、藝術新潮LP欄で『演奏は概して低調だ。情緒豊かで力強く艶やかだが、多少間のび気味で硬く大げさな傾きがある』と評した後に、『コレルリとヘンデルは海外版(米Veritas)にあったエネスコに止めを刺す。いずれも、復刻盤だが先験的で逞しく、思わずわれを忘れさせられる。』と誌していた。ただ西條卓夫もこの稀覯盤の米Veritas盤の入手に苦労した様子がLP手帖(213号;1974/10)に掲載された昭和の古老評論家の座談会記事に見られる。**************《垪和》 ヘンデルのヴァイオリンでは、ヴェリタスというレコードでエネスコが弾いているのがあるけれど、いいのはあれだけですな。《森》 そのレコードが神田に出ていたそうですね。アメリカ盤で、めったにないそうです。西条さんは、それを買いそこなって残念だと言ってきましたよ。エネスコのはたしか四番でしたね。《中村》 エネスコのはSPだったが、SP時代ではエネスコが実によかったですね。《垪和》 そのSPをLPに直したものです。**************
現在では復刻の出来不出来に差はあるにせよ数々のCDでエネスコのヴァイオリン演奏に接することが出来るやうになったが、LP時代のファンはヴァイオリニストとしてのエネスコの偉大さを演奏家事典等からの文字情報として知ることはあっても、彼のSP盤はマニアが秘蔵するか国内外のオークションで法外な価格で取引されており実際に鑑賞することは容易ではなかった。当時、音楽之友社から発行されていたほぼ唯一の演奏家事典、『世界の名演奏家とレコード』(堀内敬三・村田武雄監修、昭43)のエネスコの項には次のやうな記述(筆者は杉浦繁)が見られる。『・・・独奏者としての彼の国内盤はほかにない(註:メニューインとのバッハのドッペル協のLPのみが東芝GRで出ていた)ので彼の真価が認められないうらみがあるが、戦前SPにあったヘンデルのヴァイオリン・ソナタ第四番、ショーソン《詩曲》、コレルリ《ラ・フォリア》などは名演の呼び声の高いものであった。』このやうにエネスコの演奏について昭和の古老の讃辞を一方通行的に連ねられても殆どの読者は追体験できず、ただいつか耳に出来ることを夢見るのみであった。
然るに1970年代中頃にカナダ・トロント大学のクレイトン教授による巨匠ヴァイオリニストの復刻LPシリーズ《Master of the Bow》シリーズの制作が開始され、そのシリーズのEdition-2の二枚目にエネスコ盤が登場したときは世界のヴァイオリン・ヲタクは驚愕し欣喜雀躍したものである。英国のヴァイオリン専門誌《The Strad》にはロサンジェルス在住のヴァイオリニスト兼評論家として令名高いHenry Rossが毎号のやうに興味深い記事を寄稿しているが、彼が上記《Master of the Bow》シリーズの新譜試聴記を担当執筆することになり、エネスコ盤についても各作品それぞれの演奏についてプロのヴァイオリニストとしての経験と博学多識さに基づく視座から実に興味深い批評を執筆している。現在、数多く発売されている復刻CDのライナーノーツにこのやうな個々の作品毎にエネスコの演奏についてコメントを加えたものは皆無である。
それでは上記『The Strad』掲載記事を拙訳で紹介しよう。2000年以降のThe StradのバックナンバーはWEB上に購読サービスがあるが半世紀も昔の記事はまず参照能であろう。この『The Strad』の記事は昔、出品者がUniversity of London Library(Floor 5)のMusic Libraryに古くからの同誌のバックナンバーが大量に架蔵してあるのを発見し有らん限りの同雑誌を抱きかかえゼロックス・マシーンまで往復し長時間かけてコピーしたものである。尚、《Master of the Bow》盤[MB-1017]はエネスコが録れた全九曲が収録されていた一方、当米Veritas盤の収録はその半分の作品数に満たない僅か四曲であることに憾みはあるが。>>>>>>>>>『エネスコ(1855~1955)のレコードはこれまで入手するのが困難だったが、このたびのディスコペディアの"MASTERS OF THE BOW"シリーズからでた[MB-1017]は、新しい世代の弦楽ファンにこの非凡な藝術家の遺産に接する機会を与えるという意味で測り知れない貴重な貢献をすることになるものと思われる。
エネスコにとって不幸だったことは、他に発売された彼のレコードは全て彼が身体の不具合に酷く悩まされていた老年になってからのもので、それらは全く彼の絶頂期にはほど遠い状態のものだった。この[MB-1017]に収録された演奏はエネスコのヴァイオリン藝術を鑑賞するうえで決定的な洞察力を与える。 その演奏は現役の演奏家としての磨き抜かれ完全無欠さを具現しており、また完璧性を有し、後年の引退同然の状態にある時の録音ではないのである。
[MB-1017]に収録された演奏のほぼ全てがエネスコ特有の朗誦的で詩的なアリオーソ風のスタイルの表現を見せており、またバロック音楽の名作から”耳をくすぐる(ear-tickling)”ロマンチックな魅惑の小品までの多種多様なジャンルの音楽を念入りに描き尽くすといった彼本来の趣向を強調している。
○ コレルリの”ラ・フォリア”、デイヴィッドーパトリエ版での演奏で然程重要でない変奏曲は省略されているが、今や殆ど時代遅れとなってしまった感のある孤高の高貴さを奏でる忘るべくもないヴァイオリン演奏である。主題が驚嘆すべき簡明さでもって提示され、演奏スタイルはどこまでも純粋さを保ち、重音は”歌”を奏で、緊張と弛緩の移り変わりは興奮を呼び起こし、”Listesso leggiero bowing" (同じ軽やかさのボーイングで)の個所は甘美である。ピッチもオリジナル時の真正さを維持し実に鮮明である。
○ ヘンデルの第13番ニ長調のソナタは崇高さを感じさせる演奏であり、高貴な優雅さを湛え、音量的な抑揚と音色の共鳴において実に藝術的に彩り鮮やかな変化を与えている。エネスコは奏き進めるなかでこの音楽の隅々から慈しむやうに多くの隠された至美を顕らかにしていく。そしてこの魅惑的なレコードへの壮大な大円団と連なっていく。
○ プニャーニの”ラルゴ・エスプレッシーヴォ”は蠱惑的なカンティレーナで歌い上げられている。またクライスラーの”テンポ・ディ・メヌエット”はクライスラーを想い起させるが、エネスコのヴィブラートは、もちろん卓越したものではあるが、クライスラーほどの熱い情感を呼び起こす性質のものではなく、また演奏自体もどこか独特の柔弱な雰囲気を漂わせている。
○ ショーソンの”ポエム”は実に繊細に陰影が施され、テンポ的には緩やかで華麗さを前面に押し出した類のものではなく歌謡性に溢れたものとなっている。彼の技巧は確然かつ淀みの無い明確なものであって、作品の中ほどに聴かれるフォルテッシモの高音部のオクーターヴのラインに異様な熟慮が感取される。フィナーレのトリルによる叙述にはもはや許容限界を超すほどの揺蕩いが聴かれる。曲の開始部から終結部まで一貫して聴く者の強い興味を掻き立てずにおかない刺激的な演奏というほかない。
非凡なヴァイオリニストが次々と現れ、そしてまたいつしか去ってゆく。然るにエネスコは彼の生きた時代における単なる偉大なヴァイオリニストという以上の存在であった。彼は自身が手がける作品全てに息吹を吹き込むことの出来る特異な音楽的精神を有していた。このレコード[MB-1017]を聴く誰もが彼の魅惑に呪縛されることに全く疑いを入れない。>>>>>>>>>>
ジャケット&盤の状態ともこの稀覯盤には珍しいミントレベルでフィルムが半分かかったままである。盤面には瑕のやうなものは皆無でスピンドル周りにも使用したこん跡は見られず敢えて試聴は行わなかった。ジャケットも新品同様である。

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